大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)2299号 判決

被告人 村松芳郎 外一名

〔抄 録〕

二、所論は、馬場義雄については主務官庁により雇入契約が公認されているから、罪とならないとも言う。

なるほど主務官庁により同人の雇入契約が公認されていることは、前記認定のとおりである。ところで、船員法三八条によれば、行政官庁は、雇入契約の公認の申請があったときは、その雇入契約が航海の安全に関する法令に違反するようなことがないかどうか審査するものと定め、ここに航海の安全に関する法令とは船舶職員法を含むものと解せられるのであるが、その審査のため、船員法施行規則一九条一項の規定によると、雇入契約の公認申請に当っては海員名簿と海技免状を呈示しなければならないこととされている。そこで本件の場合、公認申請を受けた焼津市長、具体的には焼津市民生経済部産業課水産係員は、雇入契約の内容が船舶職員法に違反するか否かを審査しなければならず、その際第十二昭和丸船長より呈示された海員名簿と馬場義雄の海技免状を一読さえすれば、本件雇入契約が乙種二等機関士の資格しか有しない前記馬場を(運輸大臣の承認もないまま)一等機関士として乗り組ませようとするものであること、従って船舶職員法に違反し、当然公認を拒否すべきものであることを容易に発見し得たはずである。それにもかかわらず右違反の事実を看過し、右雇入契約を公認した焼津市長の処分は、船舶職員法および船員法に違反し、無効なものと言わざるをえない。

しかし、雇入契約の公認は、海上労働の特殊性に鑑み、船員の労働条件の保護のため設けられた制度であるから、船舶の航行の安全を確保する観点からなされる船舶職員法による監督とは、内容において交錯する面があるとはいえ、本来次元を異にするものである。従って、たとえ船員法による雇入契約の公認がなされたからと言って、当該契約が船舶職員法に違反している事実が消滅するものではなく、いわんや、雇入契約の公認が船舶職員法二〇条による運輸大臣の承認に替りうるものではない。してみれば、雇入契約の公認があったからといって、本件が罪とならないものとは言えないことは明らかである。<中略>

第四、さらに職権をもって調査すると、前記のとおり、原判決は被告人村松芳郎につき船舶職員法一八条違反の故意犯の成立を否定し、同法条の過失犯の成立を認めているものと解される。

しかしながら、本件の事実関係は、関係証拠によれば、

(一) 本件第十二昭和丸は第二種の従業制限を有する漁船で、甲区域内において従業する総トン数三〇〇トン以上五〇〇トン未満のものであるから、船舶職員法一八条一項、別表第一により、乙種一等機関士又はこれより上級の資格の海技従事者を一等機関士として乗り組ませなければならないほか、乙種二等機関士又はこれより上級の資格の海技従事者を二等機関士として乗り組ませなければならないこととされていること、

(二) しかし、船舶職員法一八条一項の例外として、同法二〇条四号、同法施行規則六三条一号およびこれに基づく運輸省船員局長昭和四三年六月六日付通達(員職第三七一号の一および二)により、運輸大臣の承認を得たときは、先に第一に記載したとおり、乙種二等機関士の資格の海技従事者を一等機関士として乗り組ませることができる(一等機関士の資格軽減の承認)ほか、二等機関士は、これを乗り組ませないでも差支えない(二等機関士の省略の承認)こと、

(三) 右二種の承認はもともと別個のものであるが、承認申請に当っては、同時に同一書式で申請することができること、

(四) 被告人村松は、右通達の趣旨を誤解し、右二種の承認の制度を混同して、二等機関士の省略の承認さえ受けて置けば、一等機関士の資格軽減の承認を受けないままで、乙種二等機関士の資格の海技従事者を一等機関士として乗り組ませても、船舶職員法に違反することはないものと考えて来たこと、

(五) 同被告人は、本件航海に際しても、被告人会社名で、昭和四九年二月二七日付で東海海運局清水支局長に対し、二等機関士の省略の承認申請を行った際、同時に同一の書式で申請することのできる一等機関士の資格軽減の承認申請をことさらしなかったこと、

(六) そして同被告人は、一等機関士の資格軽減の承認を得ないまま、乙種二等機関士の海技免状しか有しない馬場義雄を一等機関士として乗り組ませたこと、

(七) 同被告人は前記通達を右のとおり解釈するに当り、東海海運局清水支局などの管海官庁や鰹鮪漁業協同組合などの事業者団体事務局等に問いあわせることもしなかったこと、

以上の事実が認められる。

右の事実を前提とすれば、本件は、同被告人が船舶職員法およびその付属法令、法令実施のための通達を誤解して犯したものであることが明らかであり、かつ、かかる誤解を抱くにつき相当な理由があったとも認められない場合である。してみれば、本件は刑法三八条三項に「法律ヲ知ラサルヲ以テ罪ヲ犯ス意ナシト為スコトヲ得ス但情状ニ因リ其刑ヲ減軽スルコトヲ得」と定めているとおり、同被告人の故意を否定することはできない筋合である。

しかるに原判決は、同被告人の右の趣旨の弁解につき検討を加えたうえ、同被告人の故意を否定し、過失犯の成立を認めたのであるが、右は、判決に影響を及ぼすことが明かな事実を誤認したものと言わざるを得ない。原判決のうち被告人村松に関する部分は、この点においても破棄を免れない。

第五、なお職権をもって記録を調査すると、原審は昭和五〇年九月四日東海海運局清水支局において証人大石研司を取り調べた際、その証人尋問中に検察官請求の書証三通、すなわち司法警察員河西信義作成の工藤友吉に対する昭和五〇年七月三〇日付報告書および同月一四日付謄抄本入手報告書ならびに森山泰吉作成の謄抄本作成報告書を弁護人の同意を得て取り調べたことが認められる。しかしながら公判廷外の証人尋問期日において、書証の取調を行うことは、刑事訴訟法の予想しないところであり、またその必要を認めなければならない合理性も有しない。また、原審は右書証三通をその後の公判期日に証拠調をした形跡はないのに、これら書証を原判決中の証拠の標目に掲げている。してみれば原判決には、公判廷において適式に証拠調をしていない書証を事実認定の証拠として用いた違法がある。

(綿引 石橋 藤野)

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